外の風に当たりたかった。少しくらい寒くてもいい。とにかく頭が痛い。
ほぼ四つん這いになりながら沖田は縁台の上に横になる。適当に引っぱってきた座布団を枕代わりにしてきつく目を閉じた。

ざくざくと庭の砂利を踏む音がする。その足音に合わせて自分のこめかみが疼くのがわかる。
ゆっくりと重い瞼を上げると、洗濯籠を抱えたが心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫?」
「いや………」
喉の奥に鉛が沈んでいるんじゃないかと思う。

「薬貰ってこようか」
「いらねェ」
「あんなに騒ぐからだよ」
は少し歯を見せて微笑む。昨夜久しぶりに行われた宴会で、多分隊士の誰もが羽目を外しすぎたのだろう。沖田もその一人だ。お陰で今朝からこの有様だ。


穏やかな風が心地いい。物干し竿に次々とかかる何枚ものシーツが揺れる。この辺りで咲いているのだろうか、ほのかに金木犀の香りが届いた。
薄い雲の切れ目から射し込む日の光に、の緩くまとめられた髪が透ける。シーツの皺を伸ばす後姿を沖田はじっと見ていた。
「…なァ、それ」
が振り返った拍子に、髪飾りがきらりと光を反射した。朱色の、椿のような豪奢で大きな花だ。黒髪によく映える。は照れくさそうに笑った。

「ああ、これね、土方さんがくれたの。お土産なんだって」
「あの人が、んなことするとはねィ…」

あんたに気があるんじゃないの、そう言おうとして、思わず飲み込んだ。土方のに対する思いは、薄々感づいていたが、それは皆に隠れてこっそり贈り物をするほどの、純粋で少年のようなものなのだ。余計なことは言うまい。
しかし、この髪飾りはいかがなものか。似合わないわけではない、けれど、いささか派手すぎはしないだろうか。遊女じゃあるまいし。少女のような顔立ちのには、もっと可愛らしいものがいいのでは、と沖田は頭の片隅でぼんやり考える。
まるでのことが好きみたいな自分だが、土方の愛情とは違う、家族に対する愛情のようなものをはっきりとには抱いていた。家族は知らないが、きっとこんな感じなのだろう。


「せいぜい大事になせェ」
「うん」


頭の奥が鈍く痛む。もう一度、目を閉じた。



051127