「おかげんはどうですかィ」

久々に人の声を聞いた気がした。
ずっと横になっていたせいで背中は痛いし顔はむくんだままだし、みっともないことこの上ない。

やってきた沖田さんの手には、林檎がふたつ。

「見舞いの品でさァ」
ご丁寧に、果物ナイフまで持ってきて、わたしの布団のすぐそばに座ると、お世辞にも上手と言えない危なっかしい手つきでそれを剥きはじめる。
ざくざくという音。そんなにもぶ厚い皮があったものだろうか。彼の手によって林檎はひとまわり、いやふたまわり以上も小さく見えた。

「ありがとう」
八等分されたそれは随分ちんまりしたものだったけれど、わたしはなんだか嬉しくなって小皿を受けとった。ひとくち齧ると、期待したほど甘くもなく酸っぱくもなくて、やけに水っぽさだけが舌に残る。
「ぼやけた味だなァ」
もうかたほうの林檎を食べながらぽつりと沖田さんは言った。そのまま林檎は二度と誰の口に入ることもなく、お盆の上に静かにおかれる。

「他の隊士は、来ないんですかィ?」
「風邪うつすといけないから。せっかくなのに悪いけど、おみまい断ってます」
「あんた俺の心配は」
「沖田さんが勝手に来たんじゃない」
喉の奥が震えて、ごくごく自然な笑い声がこぼれる。本当に、なにもかも久しぶりだ。こうして、人と話をするのも、林檎を食べるのも、笑うのも。

さん、早くよくなってくだせェ。山崎の作る飯は、はっきり言ってまずい」
「迷惑かけてるなあ…」
「土方さんがよくどやすんでさァ。自分じゃなんもしねェのに」

沖田さんが目を細めてほほえむ。





050218