食事の済んだお椀やらお箸やらを流し台まで運ぶ。みんなのいた食堂のあたたかさは微塵にも感じられなくて、冷たい空気に身震いする。さむい。
私は渋々、冷えた蛇口を捻った。ちょろちょろと水が流れて、それに食器を浸す。
「手伝いますよ」
突然声をかけられて背後を振り返る。山崎さんだ。いつものように人好きのするやさしい笑顔でわたしを見る。一瞬目があって、それからすぐに恥ずかしくなって逸らしてしまう。

おそらく彼はなにも考えていないんだろう。頭ひとつぶん以上身長の違うわたしを、わざわざ背中を屈めて覗きこむ。目の前で少し癖のある彼の髪が遊んでいる。
熱いような冷たいような不思議な感覚が一気に襲ってきて、今までにないくらいにわたしは緊張していた。


「いいんですわたしの仕事だもの」

熱っぽい頭の中とは裏腹に、ひどく静かな声が喉を通った。曖昧に苦笑する山崎さんにほんのちょっとの後ろめたさを感じる。でも仕方がない、本当のことだ。


「たまには休んでくださいよ。無理すると毒です」
あなたにだけには言われたくない。わたしは唇を噛む。「代わりなんて、いくらでもいます」ずっと隠していたものがこぼれてゆく。
「そんなことありません」
いつのまにか笑顔は消えていて、山崎さんが身体を強張らせるのがわかった。
「俺は、さんが…さんが作るごはんが好きだし、それにあなたの代わりだなんて想像できない」








050130