空は微妙に濁っていて、空気は湿ってじめじめしていた。

洗濯したばっかりの派手な柄の着物を籠に入れて、縁台から下りる。
湿気を帯びた土をひとつひとつ踏みしめると、一昨日降った雨の感触がまだ消えていなかった。
特に意味なく植えられている柿の木の枝を、特に意味なく見上げると、細長い煙が枝に絡まるようにして断続的に現れては、消えた。
背後を振り返ると、障子戸の隙間から、晋助が煙管の先端だけを覗かせていた。
「おい」
がらり、と戸が半分だけ開かれて、あきらかに不機嫌な顔をした晋助がのっそり上体を起こす。
その様子に苦笑を漏らしながら、籠を地面に置いて彼の傍に寄った。
完全に去ってはいない低気圧を肌で感じとっているようだ。私を見て、そして憂鬱そうに空を見る。

「まだ寝てたの?ぐうたらだね」
「ざけんな、こっちは帰って来たのが朝だっつの」

そう言ってぶわっと私に煙を吹きかける。ああもう涙が出てきた。副流煙は身体に悪いのに。
咳をひとつふたつわざとらしくして晋助を睨む。
当人は別段気にするそぶりもなく、横目で私をとらえながらまた、ぷかあと煙を吐いた。
吐き出された紫煙は、速度を一定に保つことなくゆらゆらと流れてゆく。

「…あれ、金魚みたい」
ゆっくり身体を捻って、私の指す方向を晋助は上目遣いに見る。
あまりにもその動作にかかるまでが遅かったから、もうすでにその煙は消えてしまっていた。
「残念だね」
「は、どうでもいい」
「それさあ、洗濯物に匂いがつくんだけど」
「……」
「身体にもよくないよ、うん」
「お前、俺心配してんの?」
「え、別に…」
「…そうかよ…」
湿気と寝起きのため、いっそうくしゃくしゃになった頭を私の肩に擦らせながら、晋助は呻くように低く呟いた。
ぬるい温度の唇を押し付けられ、片手をついた小さな衝撃で横の髪が耳から滑り落ちる。不健康そうな骨ばった手が、頬をなぞる。
煙の味がした。苦いけど、もう慣れてしまった。


甘えたがりだ。どうしてだか、雨が降ると、いつも。











041212
060117 修整